ご家族だけで悩んでいませんか...?

 ここでは、お子さまの状況を改善するために、保護者の方に知っておいてもらった方が良いと考えられる知識や考え方についてまとめました。

目次

鈴蘭学園はこんな場所です

家から出られない子どもが、やっとの思いで家を出て、
やっとの思いで鈴蘭学園にたどり着く・・・。
これがまず最初の目的です。スクールにたどり着いたら、
次に自分の居場所を見つけていきます。
最初は、すぐに帰ってもOKです。
次は3分長く、その次は5分長く、
というように週に1回、1か月に1回でも構いません。
徐々に自分の居場所を見つけて行くこと、これで十分だと思います。
まずは焦らず、ゆっくり、自分のぺースで、
スクールをはじめとした社会と上手に関わっていける距離と居場所を、
自分で見つけ出す事を目的とします。

私たちは、なにかをしてあげるのではなく、
一緒になにかをすることを念頭においています。
それが、いつしか一人でやれるようになります。
その時はいつなのか。
気になるところではありますが、
その子なりのペースがあるので焦ると元に戻ってしまいます。
ゆっくりでいいので一つ一つ前を見据えながら、
考え、進んで行くことを第一に考えています。


ご家庭が与える影響について

 不登校の原因には学校の環境やご本人の障がいなど様々なものが複合している可能性が考えられますが、ここでは保護者の方へ向けて家庭や家族といった視点でお話ししようと思います。これまで、13年間フリースクールを続けてきて、様々なご家族と出会ってきました。その中で感じるのは、ご家庭やご家族の状況が子どもの不登校に影響を及ぼし得るということです。先述の通り、不登校の要因は様々ですし、まったくご家庭の状況が影響しないケースもあります。ただ、場合によってはこういったケースもあるということです。

 各ご家庭の状況は、家族構成をはじめとして異なる点がたくさんあります。しかしながら、不登校の問題においては、そういった目に見えるものではなく、それぞれのご家族同士、あるいはご家族とお子様の関係性が重要なのではないかと考えています。学校の中で、勉強や友達関係、進路など、子どもたちは様々なストレスにさらされています。ご家庭にはそういったストレスを和らげて、エネルギーを回復する役割が求められるのではないかと思いますが、そのご家庭内で子どもを含めた家族間の不和や、親の役割の一部を子どもが代わりに担うことなどがあると、本来安らげる場所であるはずの家庭内でもストレスを抱えてしまいます。抱え込んだストレスは、やがて何らかの形で表出することになりますが、その形の一つが不登校であると私たちはとらえています。耐えきれないほどのストレスの表現は一人ひとり異なり、子どもによっては非行といった形で見えるようになることもあります。表現の形は違っても、やり場のないストレスを抱えているという原理は一緒なのです。

 当スクールの保護者面談では、ご夫婦一緒に来ていただくことがあります。その際は、考え方の違いなどについてそれぞれの立場からお話をしていただき、すれ違いが生じた部分については、相手を理解する前提でより深く話し合いをしていただいています。第三者を交えることで客観性を失わずに話し合いを進め、この場での相互理解を土台とし、子どもに対する今後の新しい接し方を探します。

 また、面談では保護者の方から子どもの学習や今後の生活(あるいは生き方)についてのご希望をお聞かせいただくこともあります。様々なご希望やご期待がある中で考えなくてはならないのは、今、目の前で子どもがどういう状況に陥っているのかということです。状況を改善させたい一心で様々なご期待を抱くお気持ちは強くお察しいたしますが、そのためには目の前で起きている現実と、子どもの気持ちを受け入れることが前向きな解決の第一歩なのではないかと考えます。

 ただ、気持ちがはやり、どうしても子どもの気持ちや状況を受け入れられないという場合もあるかと思います。また、保護者の方自身の信条や信念もあるかと思います。そんな時には、自らの幼少期を思い出してください。ご自身がどのようなご家庭で、どのようなお気持ちを抱きながら育ったのかを丁寧に思い起こすと、子どもが不登校になっているという現状を受け入れられない価値観の根本がわかるかもしれません。多くの場合、子どもに対して抱いている感情や考えは、かつて保護者ご自身が子どもだった頃、親御さんからご自身に向けられていたものと同じなのではないかと思います。そこに気づくことがわが子を理解する上での重要なポイントとなるでしょう。

 親子で一つの家庭を育んでください。当たり前のようで見落としがちな事実について、ぜひご家族みなさんが同じ方向を向き、話し合っていただければと思います。

不登校に関する疾病など

不登校になっているお子さんの中には、起立性調節障がい、発達障がい、その他疾病・障がいの診断を受けているケースがあります。また、その疑いがあるものの、まだ必要な医療や支援を受けていないケースも見受けられます。このような場合、保護者の方からは疾病・障がいについてよく分からないといった声も寄せられます。そこで、ここでは不登校に関連するケースが見られる具体的な疾病・障がいについて簡単にご説明します。

 ここに記されていることにかかわらず、お子さまの体調や発達について何か気になる点があれば専門的な相談機関に迷わずご相談ください。鈴蘭学園ではご相談できる機関をご案内することもできますし、ご不安があれば仲介することもできます。大切なのはご家庭だけで抱え込まないことです。必要な医療・支援を早く受ければ、それだけ事態が良くなるのも早まります。

起立性調節障がい

起立性調節障がいとは

①症状・原因

 起立性調節障がいとは、

  ・頭痛がひどく朝起きられない

  ・無理に起きるとめまいがする

  ・立ちくらみを起こしやすく、立っていると失神することがある

  ・しかし、午後から夕方にかけて回復し、夜には元気になり、なかなか寝付けない

 といった症状を主とする自律神経の乱れによる病気です。この自律神経の乱れによる血行不良から血圧の低下や頻脈が起こり、頭痛やめまい、失神等の症状が表れると言われています。夕方から夜にかけて体調が良くなるのは、その時間帯になると自律神経の調子が整ってくるからです。自律神経の不調が原因であるため、本人の意思とは無関係に症状が表れます。

②不登校の一因にもなっている

 目が覚めても頭痛やめまいがひどくベッドが出られないため遅刻を繰り返す、または、倦怠感のために授業に集中できずついていけない、など、起立性調節障がいは学校生活に大きな影響を及ぼすこともあります。その結果、友人関係がうまくいかなくなったり、親や先生から病気を理解されず「怠け者」扱いされたりする悪循環に陥ると、苦しくて学校に通えなくなってしまいます。不登校の子どもたちの約7割に起立性調節障がいの症状があると記載されている文献もあります。(※)

 また、起立性調節障がいは心理的なストレスが大きく影響すると言われています。学校についてのストレスが発症や重症化の一因になっていることもあるようです。

※田中秀隆(2017)『改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応』中央法規

   

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 起立性調節障がいは夜更かしと朝寝坊が目立つ疾患です。そのため、周囲の大人は単なる怠け癖と決めつけてしまうことが多いようですが、一度落ち着いて子どもの症状を整理してみることが大切です。いわゆる「夜型」の生活リズムや、朝から午前中にかけてとても辛そうにしているのに、夕方ごろからとても元気になるようなケースでは、一度小児科専門医に相談した方が良いかもしれません。

 また、起立性調節障がいを発症する子どもには共通する心の傾向があると言われています。幼いころから周囲に心配りができる優しい子で、親や先生が「手がかからない子」などと感じる子どもです。このような性格の子どもは、周囲に合わせるために自分を抑えることでストレスをため込む傾向にあります。一方で、発達特性を持つ子どもも発症することがあります。このような子どもはこだわりが強く、コミュニケーションが苦手なことも多いため、学校でストレスをためやすいのです。

  

対応・注意すること

①小児科専門医にかかる

 症状の相談に行く場合は小児科専門医がよいとされています。小児科を受診するのは中学生くらいまでと考えている方も多いと思いますが、中学卒業後であっても成人するまでは小児科にかかることができます。(※)

※日本小児科学会 https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=66

②親や先生が病気を理解する

 先述の通り、起立性調節障がいの症状は自律神経の乱れによるものなので、怠けているわけでもなければ、気合や根性でどうにかなるものでもなりません。そのことを保護者や学校の先生がきちんと理解せずに責めてしまうと、子どもが追い詰められてしまいます。まずは保護者や学校の先生が子どもの状態とこの疾患についてきちんと理解することが子どもを支えるの第一歩です。

③ストレスを軽減する

 起立性調節障がいは心理的ストレスにより悪化することが知られています。この疾患を持っている子どもは、遅刻や欠席を繰り返して生活が思うようにいかなくなることでストレスを感じ、それを親や先生に責められることで、さらにストレスを抱えてしまう傾向があります。保護者と学校がきちんと病気を理解して、日常生活と治療を両立できるよう配慮してあげることが大切です。

   

発達障がい

 テレビやインターネット上でもたびたび目にする言葉ですが、「発達障がい」という言葉だけでは漠然としていてわかりにくいものです。発達障がいは大きくいくつかのグループに分けられますが、生まれつき脳の情報処理機能に偏りがあるという点で共通しています。「生まれつき」というのがポイントで、育て方や環境によって生じるものではないということを理解していただきたいと思います。また、1人の人が複数のグループにまたがっていることも珍しくありません。以下、主なグループについて簡単にご説明します。

自閉スペクトラム症(ASD)

 以前はアスペルガー症候群、広汎性発達障がいなど細かく分けられていましたが、現在では基本的にこの名称で呼ばれています。同一の障がいの程度の違いという解釈をするようになったからです。自閉スペクトラム症には次のような特性があります。

 ①社会的なかかわりが苦手

   人と目を合わせない

   時と場所にあった言葉遣いや行動が苦手

   他者に対する関心が薄く、共感することが苦手

   身体的な距離感が近いことがある

   自分の考えにこだわり、一方的な言動が目立つ

 ②コミュニケーションが苦手

   言葉の発達が遅い

   「これ」、「あっち」などの曖昧な表現が理解しづらい

   相手の表情から感情を読み取りづらい

   言葉を字義通りに捉えるため、たとえ話や書いていないことを推測するのが苦手

   自分の気持ちの表現方法がわからないためストレスを抱える

 ③想像力の偏り・こだわり行動

   好きなものには極端に没頭するため、他のことを犠牲にすることがある

   決まった生活パターン、移動の道順、作業手順などにこだわる。

   急な予定変更にストレスを感じる

   一見すると無意味に見える反復行動がみられる

 また、これらの特性に加えて光、音、臭い、味、さわり心地、温度感覚などが敏感・鈍感になるといった特性も見られます。日常の音に耐えられずイヤーマフを必要としたり、肌感覚が敏感なため着られる服が限られたりするなどのケースです。他人にとっては何気ないことでも本人にとっては大変な苦痛になっていることもあり、周囲の配慮が必要となります。

注意欠如/多動症(ADHD)

 名称からも想像できるかと思いますが、これは注意力と行動についての偏りを示す障がいです。ADHDには不注意、多動性、衝動性の3つの特性が見られます。

 ①不注意

  気が散りやすく、授業などに集中できない

  ケアレスミスが多い

  忘れ物が多い。よく物をなくす

  時間の管理が苦手

  興味のあるものには極端な集中力を示すことがある

 ②多動性

  じっとしていられず、授業中でも動き回る

  落ち着かず、静かに過ごすことが苦手

  しゃべりだすと止まらなくなる

  貧乏ゆすりなど、手足を動かしていることが多い

 ③衝動性

  順番を待てない

  他の人の作業を遮ったり邪魔をしたりする

  思ったことをすぐ口にしてしまう

 不注意が優勢になる場合、多動性や衝動性が強く出る場合、両方ある場合など、特性の表れ方は人それぞれです。多動性が弱く不注意のみが強く出る場合、周りからは本人の特性がわかりづらく、なかなか気づけないことがあります。

限局性学習症(学習障がい・LD)

 限局性学習症は、学習障がいとも言われるもので、知能全般には問題がないものの、特定の能力(複数の場合もあります)の習得や使用に困難を伴う障がいです。主に「読む・書く・計算する・推論する」といった能力に困難さを示しますが、それ以外にも「聞く・話す」といった行為が苦手な場合もあります。

 ①「読み」の困難さ(識字障がい・ディスレクシア)

  「b」と「d」、「わ」と「ね」といった、形の似た字を判別できない

  小さな「っ・ゃ・ゅ・ょ」が発音または認識できない  

  文字や単語を飛ばして読んだり、どこを読んでいるのかわからなくなったりする

  文節や単語ごとではなく一文字ずつ読むためスムーズに読めない

 ②「書き」の困難さ(書字障がい・ディスグラフィア)

  漢字をなかなか覚えられない。ひらがなやカタカナの習得も完全ではない

  鏡文字やオリジナルの文字を書く。誤字脱字が多い

  文字の大きさや形がバラバラになる

  文法的な誤りがあり、文章を書くのが苦手

 ③「計算する・推論する」の困難さ(算数障がい・ディスカリキュア)

  簡単な計算ができない。数の大小がわからない

  繰り上がり、繰り下がりがわからない

  図形やグラフ、長文読解が苦手

 ほかにも「聞く」ことの困難さ(聞き間違いが多い、会話や長い話の内容がわからない)や「話す」ことの困難さ(筋道を立てて話すことが苦手など)を抱える人もいます。

知的障がい

 知的障がいとは、おおむね18歳までに現れるもので、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別な援助を必要とする状態にあるものを指します。WISCやビネー式といった専門的な心理検査の結果として示されるIQと、日常生活能力の制限の程度を併せて総合的に判定されます。知的障がいには法的な定義が存在しないのですが、このように知的機能と日常生活能力の両方に制限が現れている状態を指すことが一般的です。

 IQ以外の日常生活能力については、

概念的領域:記憶、言語、読字、書字、数学的思考、実用的な知識の習得、問題解決、新規場面における判断など

社会的領域:他者の思考・感情・体験を認識すること、共感、対人的コミュニケーション技能など

実用的領域:セルフケア、仕事の責任、金銭管理、娯楽、行動の自己管理など

といった3領域で示され、それぞれ客観的な尺度で評価されます。知的障がいは、IQとこれらの日常生活能力の制限の程度によって軽度・中等度・重度・最重度の4段階で判定されることになります。

二次障がい・精神疾患

 ここに挙げたもの以外に、心の不調・病気についても触れておきます。これらは単独で発症することもありますし、上記障がいと生活環境とのすれ違いで起こるストレスによる二次障がいとして発症することもあります。

うつ病

  元気がなくなる、食欲が落ちる、眠れなくなる、物事を決めることができなくなるなどの症状があります。

双極性障がい(躁うつ病)

  元気で疲れ知らず、クリエイティブになる、自分中心で物事を進めようとするなどの躁状態と、

  上記のうつ状態を繰り返します。

不安症

漠然とした不安・状況に対して不釣り合いなほど大きい不安が特徴です。特に対人面で不安や緊張が大きくなる傾向があります。不安により体調に悪影響が現れる場合もあります。

パニック症

 不安症の一種で、強い不安により呼吸困難や吐き気などのパニック発作が起こります。また、外出先でのパニック発作を恐れて外出を控えるようになることもあります。

脅迫症

 極度の不安を打ち消すために、何度も手を洗う、何度もカギがかかっているか確認するなどの脅迫症状が現れます。

心的外傷後ストレス障がい(PTSD)

 災害、事故、暴力など、過去のつらい体験が突然よみがえり感情が不安定になることがあります。つらい体験がよみがえっていないときでも、不安により心身に影響を及ぼす場合があります。

適応障がい

 現在の生活の場、あるいは生活の変化が、その人にとって大きなストレスとなり、気分や行動面に影響が現れるものです。ストレスの原因から離れると症状が次第に改善する傾向にあります。

睡眠・覚醒障がい

 眠れなくなる「不眠症」、眠りすぎてしまう「過眠症」のほかに、眠っているときに立ち歩いたり突然叫んだりしてしまう症状もあります。

かん黙

 だれとも話すことができない「全かん黙」と、家族などと話ができるが学校などでは話せなくなる「場面かん黙」があります。

摂食障がい

 体形や体重などへの強い不安から食事面の行動がうまくいかなくなる症状です。極端に食事を制限する「拒食症」や大量に食べた後に嘔吐するなどの「過食症」などがあります。

心身症

 検査をしても異常が無いのに、腹痛や頭痛など身体的な症状が見られるものです。ストレスにより自律神経のバランスが崩れることで起こると考えられています。

困ったときは

  お子さまが病気や障がいだと診断されている、あるいは、その疑いがあるが、どうしたらよいかわからないという場合もあるかと思います。実際に、鈴蘭学園にご相談に来られるご家族からも、そのようなお話を伺うことが数多くあります。また、保護者の方は気づいておられなくても、私たちから見てその可能性を考え、お伝えする場合もあります。

 繰り返しになりますが、そのような場合は専門的な相談機関に迷わずご相談ください。どこに相談したらよいかわからない場合は、鈴蘭学園が適切な相談機関をお探しします。鈴蘭学園では、これまでも数多くのケースを支援してきましたので、障がいが不登校の一因になっているような場合でも受け入れ可能です。学校と連携した支援だけでなく、現在の心のケアや将来の社会生活に必要なスキルの練習を日常の活動を通して行います。また、下記に記した参考文献やサイトは、ここに書かれた内容をより詳しく、分かりやすく説明してくれています。気になる方はぜひご一読ください。

   

参考文献・参考サイト

宮尾益和(2017)『発達障害の基礎知識』 河出書房新社

内山登紀夫(監修)(2019)『ちょっとふしぎ-自閉スペクトラム症-ASDのおともだち』(あの子の発達障害がわかる本①)ミネルヴァ書房

―――(2019)『ちょっとふしぎ-学習障害-LDのおともだち』(あの子の発達障害がわかる本②)ミネルヴァ書房

―――(2019)『ちょっとふしぎ-注意欠如・多動症-ADHDのおともだち』(あの子の発達障害がわかる本③)ミネルヴァ書房

―――(2019)『知ってほしい-発達障害とこころのふしぎ』(あの子の発達障害がわかる本⑤)ミネルヴァ書房

田中英高(2017)『改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応』中央法規

日本小児心身医学会「小児の心身症-各論(1)起立性調節障害(OD)」田中英高 http://www.jisinsin.jp/detail/01-tanaka.htm

厚生労働省 e-ヘルスネット「知的障害(精神遅滞)」稲垣 真澄・加賀 佳美
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html